抜刀、その単純な行動ひとつでその者の熟練された武力がまるで絵に描いたかのように理解することが出来る。

彼女が振る1太刀は煌めく氷の結晶の如く繊細に、そびえ立つ氷山の如く大胆に、冷たく鋭い剣先を震わせた。
しかしその刀に付いた鈴は何の音も発することは無く、ただ刀身がヒュウっと風を斬る音だけが鳴る。
その静寂を切るのは、

「あーもーっ!どうして私は運命の人に出会えないのーっ!!」

彼女の言の葉だった。
その増し増しな雑念を振りほどく事は出来ないのが彼女の素晴らしいところでもあるのだろう。

「素晴らしい太刀筋です。あまりの美しさに目を奪われました。」
刀を鞘に収めると同時に森の影から弓使いが顔を覗かせた。
「ですが、問題はその想いですね。それでは戦場でも集中出来ないでしょう。」
「それくらい自分でも分かってますよぅ...」
彼女は白い顔を少し紅く染めた。
しかし彼女だって女性、恋をしたい雑念のひとつやふたつあってもおかしくはないだろう。
「...あなたは私とは違い、きっと皆さんに好かれているのでしょう?」
容姿端麗な弓使いにチラリと目をやるが彼は特に変わった様子もなく。
「それはどうでしょう。しかし美しい貴女が仰るのであればそうなのでしょうね。」
ただにっこりと笑みを返すだけであった。
しかし、その表情は彼女をさらに紅く染めた。
「さて、お話はここまでにして私と1勝負どうですか?
弓と刀がやり合うというのもおかしな話ですが、見たところかなり冷静さをかいてしまっているようですしね。」
そう言いながら彼は弓と矢を静かに構えた。
「だっ、誰のせいでそうなってると思っているんですか!!
こうなれば責任は取ってもらいますからね!!」
彼女はそう言いつつも彼と同じように静かに刀を抜いた。

それはまた美しく、しかしどこか恥じらいを持ったような抜刀だった。
更新日時:2021/11/06 14:53
(作成日時:2020/11/14 01:18)
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