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ウチのお婆ちゃんがLv5~6踏襲型ワダツミな件

by
おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ

最近気づいたのだが、お婆ちゃんは
ワダツミだ。
だから僕はお婆ちゃんを殺さなければ
ならない。

………

最初に異変に気付いたのは、小学4年の
時だった。
家に友達を招いてゲームをしていた僕は、
途中でトイレの為に部屋を出た。
戻ってみると、友達はおらず
お婆ちゃんが替わりに座っていた。
『○○くん、帰ったで』
そう言うお婆ちゃんの顔は、妙に
ツヤツヤと輝いて見えた。
翌日、学校で会った友達は去勢された
パグのように老け込んでいた。

次に異変に気付いたのは、高校1年の
時だった。
お腹を出して寝ていたせいで、目が覚めた
ときには熱を出していた。
なかなか風邪が治らない僕を、お婆ちゃんは優しく看病してくれた。
お婆ちゃんの近くにいると、不思議と
僕の体調も良くなった気がしたのだ。
窓も開いてないはずの部屋の中を
一陣の風が通り抜けた気がした…
と思う間に、僕の風は治っていた。

最近で異変に気付いたのは、一月前の
仕事帰りだった。
居間でお婆ちゃんが血塗れになっていた。
『お婆ちゃんっ』
すぐそばに倒れた棚と、乗っていた茶器が
割れて散乱していた。
棚は足の部位が腐食していた。
これが折れてお婆ちゃんに倒れかかったのだろう。
『お婆ちゃんっ救急車呼ぶから!』
118と119を間違えながらもなんとか
通話を終えた僕が急いで居間に戻ると、
お婆ちゃんは割れた茶器を片付けていた。
『お婆ちゃんっ!体は大丈夫なん?!』
『なんや!見てわからんのか』
『血ィ出てたやんっ!』
『見間違いちゃうん。それより片付け
手伝えやっ』
夢を見ているような気分のまま、僕は
割れた茶器を新聞紙でくるんでいた。
途中で来た救急隊員の人たちにも
手伝ってもらった。

………

最近、友人の誘いでゲームセンターに
来ることが増えた。
UFOキャッチャーしかイメージのなかった
僕はその多様性、ジャンルの幅に圧倒されるばかりだった。
そんな中で、友人の一押しとされるゲームがこの『ワンダーランドウォーズ』。
一般受けはしなさそうだけどコアな層は
沸きそうだな、とか思いながら何気なく
プレイして数ヶ月…
あるキャストと戦っているうちに
気が付いてしまった。

僕のお婆ちゃんは
ワダツミだ。


怨讐タマテバコ型の。

だから、僕はお婆ちゃんを殺そうと
思った。

………

今、安らかな寝息をたてるお婆ちゃんの
前に僕はいる。
その喉元に刃を突き立てるために。
『お婆ちゃん…ごめんな。
遡行トキガエシ型やったらこうはならん
かったんや。怨讐タマテバコは他の人に
迷惑がかかる。僕がお婆ちゃんを
止めないかんのや』
せめて、顔は見ずに終わらせたい。
僕は手にしたナイフを握りしめると、
ひと息に振り下ろした。

キィン…!

ナイフが、弾かれた。
鈍く煌めきながら飛んでいく刃。
理解ができない現象をまえに固まって
しまったが、次の瞬間には布団を
めくっていた。

亀が、いた。

『…招来オオウミガメ?!』

森に置いたり兵士の弾を塞き止める
用途も持つ亀。
いずれもデコイとして使われるのだ。
今回のように。

『やっぱり気づいてたんか』

背後から声がした。
振り向こうとした頬に、孫の手の先端が
突き付けられていた。

『動かんほうがええ。オレの三叉槍は
よう切れる。根本判定もアリや』

サポーターのクセに根本判定とは。
『なんでやお婆ちゃん。
なんでワダツミなんやねんな』
『オレはいつまでも生きなアカンのや』
『なんでそうまでして生きなイカンのや!』
怒りのままに振り向くと同時に
足をつき出すと、お婆ちゃんは不意を
つかれたのか大きく吹っ飛び、襖を押し倒しながら姿を消した。
すぐさまナイフを拾いあげ襖の向こうを
覗きこむと、散乱したガラクタと土ぼこりが視界に飛び込んだ。お婆ちゃんの姿は
無かった。
『消えたっ?』
シリウスブリンクに考えが至った時と
僕の頭にタマテバコが直撃するのは同時
だった。
僕がナイフを拾った時にはもう、
お婆ちゃんは背後に潜んでいたのだ。
途端に体を疲労感が襲う。
これがMP回復力の低下か。
『おかげでお婆ちゃん、また元気に
なったで』
今の一撃がトリガーだったらしい、
お婆ちゃんの足元からはぼんやりと光る
陣のようなものが浮かんでいた。
僕に吹き飛ばされたダメージもすっかり
癒えたらしい。そのまま攻撃の構えに転じたので、僕はとっさに背後のちゃぶ台を盾に構えた。
飛んできた孫の手を受け止める…

…はずが、孫の手はちゃぶ台を貫通し
僕の顔面に直撃した。

『ッがぁ!!』

鼻を押さえる僕の視界には涙が滲み、
そのボヤけた靄の中にお婆ちゃんのイヤリングの煌めきが弾ける。
海の幸司る釣り針
間違いない、大兵士すらも貫通する釣り針の力だ。ちゃぶ台など紙切れも同然に等しい。
しかし威力はどうか?
僕は宙を舞う孫の手をキャッチすると
そのまま前へと駆けた。
『な…っ?!』
ちゃぶ台を踏み台に、おもいっきり蹴りあげると勢いのまま、お婆ちゃんにのし掛かる…
そして、部屋に射し込む月明かりが
倒れたお婆ちゃんと馬乗りになる僕を
照らしていた。

シリウスブリンクで火力が下がってた
のが敗因やったな。お婆ちゃんは
トキガエシ型やないから火力がそのまま
やったんや』
孫の手の切っ先を喉元に向け、僕は
じっとお婆ちゃんを見下ろす。息を切らしながらも、その目はいつもと変わらない、
孫を見る優しい目だった。
『なんか、言い残す事はあるか?』
『…お前が終らせるんなら、それで
ええ』
『僕が孫やからか?』
お婆ちゃんはなにも言わず、ただ目を
細めた。もうこれ以上、聞くことは無かった。
『もう十分長生きしたやろ…
あばよ、お婆ちゃん』

僕は、孫の手を振り下ろした…

………

 血に濡れた両手のまま、僕はお婆ちゃんの
部屋を漁っていた。
僕は警察に捕まるだろうが、なぜお婆ちゃんがワダツミになったのかが知りたい。
これは僕とお婆ちゃんの問題なのだ。
だが箪笥の中にも、押し入れの中にも
答えになるようなものは見つからず、
出てくるのは子どもの時に僕が持ってかれたオモチャ。絵本。ランドセル。
何気のない懐かしい品ばかりだ。
その何気ない品が、何気ない記憶を
呼び起こした。

『ごめんな、お婆ちゃん体弱くて』
『お婆ちゃん、死んじゃうん?』
『お前が大きくなるまではなぁ、
お婆ちゃんも頑張って生きるわなぁ』
『いやや、ずっと生きてや!
お婆ちゃん死んだらアカンで!』

子ども故の、無茶で無垢な要求。
僕にとっては忘れてしまうような記憶。
だが、お婆ちゃんはどうだった?
『…でも僕は、人にタマテバコぶつけて
まで生きてほしくなかったで』
これ以上探しても何も得るものはないと
思ったその時、その手記は見つかった。
それは、誰に宛てるでもない独白のような
ものだったのだろう。
読み終えた時、僕は全てを知った。

………

『先生っ!オレの孫は、どういう
病気なんですか?』
『この子は生まれつき体内の免疫が
弱い。おまけにレントゲンに写ったこの
影…ほら、心臓の付近。毒りんごだよ』
毒りんごっ?!』
『これでは心臓が血液を送るたびに
毒素が行き渡ってしまう。手術のしようもないよ』
『そんな…』
『まあ、毒素を中和できる薬を定期的に
注入できるなら延命は可能だが…
かなり高額な治療となるな』

そんなお金などない。
どうすればいいのか…

『あとは、ワダツミ療法だ』
『ワダツミ療法っ?!』
『ワダツミの刻煙解放によるMP回復速度のアップ、そして雄風トキツカゼのHP自己
回復を合わせればあるいは…』
『ま、孫は生きられるんですか?!』
『だが遡行トキガエシではダメだ!
そんなレベリング速度では彼の体は
もたない。もっと爆発的なレベルアップ…怨讐タマテバコでなければ!』
『やります…やらせてください!孫の為
なら、他人のMPを犠牲にしてでも…』

こうして、オレはワダツミになった。

………

『お婆ちゃんっ!』
僕はお婆ちゃんの体を揺さぶっていた。
どうして言ってくれなかったんだ!
全部…全部、僕のためじゃないか!
ふざけるな、文句言わせろ!
だから、起きろよお婆ちゃん…

僕の呼びかけも虚しく、お婆ちゃんの体は
月明かりに沈んだままだった。
項垂れる僕。
静寂が闇を包みこむ。
闇が。
僕の記憶の続きを浮かび上がらせた。

………

『ほんならお婆ちゃん。僕、人魚
捕まえてくるわ』
『人魚?』
『この前、先生が読んでくれた本に
書いてあってん。人魚食べたら
死なへんようになんねんて』
『そうなんか。ならお婆ちゃん
刺し身にして食べたいわ』
『絶対捕まえたるからな!』

………

お婆ちゃんを救うには人魚しかない。

僕は布団からカバーを外すと
下半身にそれをグルグルと巻き付けた。
僕はシレネッタになった。
エナジーソング♪ならお婆ちゃんを
救えるかもしれない。it,s showtIme!! 
『ユー・オーマイ・So!So!
いつもすぐそばにある♪』
お婆ちゃんの周りには、いつも暖かい
風が凪いでいた。
『ゆずれないよ、誰も邪魔できない♪』
その風は、僕を癒す為の風だった。
『か・ら・だ・中に風をあつめて♪』
その風を、今度は僕が!
『巻きおこせ♪
A・RA・SHI!  A・RA・SHI!!
For  dream!!!
 
 
海の底まで届け、僕の歌。

………

魂のままに絞りだした歌声は朝まで続き、
限界まで掠れた僕の歌はやがて、朝日に
紛れて消えた。
僕は、シレネッタになれなかった。
奇跡はおきなかった。
せめて、レクイエムにはなれただろうか?
力尽きた僕は畳に崩れ落ちるが、
足だけが縛り上げたままなので
頭を壁にぶつける形になった。

このまま、眠りたい。
心地よい風が眠気を誘う。

暖かい風が。

この風は。

『言ったやろ』

オレは死なへんって。

やっぱりお婆ちゃんはワダツミだ。

だから、大丈夫。

このまま眠ろうと、僕は思った。

 
作成日時:2022/08/22 23:50
カテゴリ
ワダツミ
コメント( 4 )
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おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
2022年8月23日 0時12分

biood_ワイズマンさん
感謝するぞ人の子よ。我も自分でなに書いてるか
不明であったが、笑顔になれたなら感無量なり。
また出逢えたならば、此方こそご迷惑を御掛けします。

blood_VAISSMAN
オニギシ
文筆
文筆
オニギシ
2022年8月23日 0時36分

おぱんにゃにゃさんの毒が回ったようだ…
前半は字数の少なさとテンポよさから穏やかな雰囲気が自然と感じられます。
逆に後半は描写が増えることによってスピード感と畳み掛けるような緊迫感が伝わってきました。
おぱんにゃにゃさんのユーモアと技工の結びついた文章はつい読み返したくなる魅力がありますね…!羨ましいです!

おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
2022年8月23日 0時49分

オニギシさん
無礼を詫びよう…解毒方法は存ぜぬ故、
シュアバルツでなんとかしてください。
此方こそ、その方の文章には誠意や暖かい人柄が
感じられると我は思うぞ。我もその誠実さが欲しいです。
あとテンポが違うのは、単純に1度書くの飽きて
また再開したからです。技工というか、飽き性です。

オニギシ
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