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冒険譚の断片/フラグメント

by
烏兎@Volksages
烏兎@Volksages
冒険譚。"黒猫"と名付けられたこの新筆使いの家の新兵の御守はツクヨミ、ロビン、そして──


「ほら、破れてた衣装繕っておいてやったぞ。全く、世話かけんじゃねえ」
「すみません、ありがとうございますっ」


──ナイトメア・キッド。アタッカーで全国対戦に行かないこの神筆使いの家では、その分アタッカーを愛でるかのように冒険譚の供に彼らを選んでいた。
物語は深度400。そろそろ相方がいないとマメールから提供されたアシストでは撃破が難しくなってくる頃合いだ。
しかしながら、この深度で戦う分にはそのアシストのお陰もあってキャストの側はそう即死はしない。
傷付き倒れる事も多い新兵の少女を繕うことも、現状は彼らの務めとなっている。


「ま、貴様が立派に独りでヴィランを打ち倒すなんざ──まだ当分先の話だろうがな」
「む……そんなことはありません。折角皆様に育てて頂いているのです、必ずや、何時か遠からず!」


煽り立ててやると、出処のよくわからないきらきらした自信で返してくるのが面白い。
そうかよ、と撫でてやると天上色の絵の具のような瞳を細めて気持ちよさそうにするのはまるで仔猫のようだ。


(態度まで猫になれと思って名付けられてはいねえと思うんだけどなァ……)


面白可愛いので突っ込まないでやっているが──
 平穏に似合わない、聞き慣れない靴音に銃を抜き振り返る。あるかないかの小さな靴音。それこそ、ルームシューズくらいの──


「あら、貴方が此処の新兵の教育係?」

ラブラドレッセンスのような、金糸に他の色彩が遊び踊るような光沢の髪。その向こうで、紫水晶の瞳の小娘が、好戦的──或いは挑発的に微笑んでいた。

「セバスと貴方の主の依頼で来たわ、フィー・ラプンツェルよ
 貴女の物語の加筆を手伝ってあげる」
 

"黒猫"をじっと見据えて自信満々に宣言する彼女の傍らには、彼女の新兵が付き従っていた。














……マッチングしないと撃破が難しい段階に来ている。
成程、逆に言えば繰り返し組むことが出来る相方を見付ける事で、新兵の成長と物語の進展を確実なものにする。
確かに判断としてはその通りだ、間違っちゃいない──が。


辿り着く緋奏の舞台、相対するは──……


「おい」
「ええ、何かしら」
「俺達の深度は」
「聞いているわ。400台だそうね」
「──此処は」
「最深部(R:999)よ、それがどうかしたの?」


──どうかしたも何も聞いてねェよ!!! 悪童は良く響く舞台の上で盛大に叫ぶ羽目となった。
目の前に居るのはクロノダイル、フロスティ、ジャバウォック……ヴィランがなんと、三体である。
深度600にも至った事のないナイトメアにとって、2体相手にするのも未経験であるというのに。

数が増えているというのに、これまで戦っていた深度の2倍か3倍は痛い。
幾度も撃破され悔しさに冷たい床を殴るナイトメアに、苦笑いしながらフィーは応えた。


「まあ、最初は誰しもそんなものだからわざわざ言ってなかったわ。
 動きを理解するまでは観察しながら避けてなさい。敵視を受け持つというのも立派な仕事よ」
 
 









「実はね」

マテリアルを仕分けして片付けているナイトメアの隣、枕を浮かせて椅子のようにして座りながらフィーが言う。

「ベルゼブブはワンダースキルの前は張り付いてた方が安全よ。
 ジャバウォックの風も本人から六方向だから見えない処に行くより見えてる範囲に居た方が楽よ
 本体に重なってると当たらないまであるし」
「近付くも勇気ってことか」
「ワンダースキルの後は流石に蛮勇だけど」


弾幕ゲームには真下安置なんていう事態があるらしいが、似たようなモンだろうか。

「アイツらの防御力が高すぎて私もマスタースキルがないとダメージが入りづらいのよね
 硬直の大きいジャバウォックのビームを無駄打ちさせてくれたり、雪玉を避け続けてくれるだけでも有難いわ」
 
 





最深部は俺も彼女も死ぬときは呆気なく死ぬ。
フロスティの雪玉を避け続けながらクロノダイルを凌ぎ続ける間に、彼女がさっくりジャバウォックを仕留めて楽に事が終わることもあれば──複数のヴィランが同時に発狂し出してパニックになり、二人して撤退させられてしまうこともある。


「ッ、猫……!無事で居ろよ──!」

互いの新兵だけが戦場に居残っている。黒白の微睡みの中で祈りながらふと横を見ると
……黙々と新兵に帰還指示線を引いているフィーがいた。

「──べ、別に死んでも負けはしないし心配は」

心配してるんだな、と皆まで行ってしまう程風情のないヤツではなかった。








──物語を旅していると衣装や髪型の断片を得ることがある。

「──チャット、こっちに来い」

"黒猫(R:ノワール チャット)"を隣に呼ぶ。「未だ衣装を繕うのは後でいいですよ?」なんていう新兵を軽くはったたいてから──一応の少女であろうヤツが傷塗れの装いで再出撃するな馬鹿野郎──得た宝箱の中身を掲げる。
水晶から光がこぼれるような煌めきが包んで、それまでショートボブだった彼女に、穏やかにうねる波のような髪が満ちる。
それを紐でささっと結い上げてやると、隣のフィーとはサイズ感から何から何まで違うがツインテールの完成だ。

「わ、わ……!?」
「報酬から出てきたんだ。ま、悪くねぇんじゃねえか?」
「有難う御座います!」

服は生憎深度報酬が主。今回は入手出来なかったが、また何処かで機会もあるだろう。










「きゃあッ!?や、やっちゃった──」
「ふん、俺に任せておけ」


何度も何度も最奥に挑んだ。慣れてくると、ベルゼブブ一体より、三体を相手取る方が安定して来る気さえした。
それでもフィーというキャストは設置物を使って戦うキャスト。動けるタイミングと動けないタイミングがあり、どうしても事故はある。
目を回している彼女の目の前に居るヴィランは満身創痍だった。冷たい風をぶつけると、そいつが文字列にほどけていく。


「やるじゃない、助かったわ──あら、ドロー盛りにしたの?」
「安全な位置からじゃ届かなくてな」


復帰したフィーの目の前でくるくると銃を回す。
エンドルフィンにはストレートショットの弾のサイズの拡大と、硬直が減少する効果がある。
それを活かせないのは惜しいが、ワンダースキル以後攻撃が激化していくヴィラン達に対して近距離で硬直が重たく三連射にダメージが分割されるナイトメアのストレートショットでは差し込みが難しい。
エンドルフィンが伸ばす火力が、"ストレートショットの攻撃力"ではなく、"攻撃力"そのものであることを良い事にドローで戦えないかと考えたのだ。


「実は頭良いんじゃないの、貴方?そっちの方が戦えるかもしれないわね、
  ヴィランはスキル耐性SS耐性は高いけどDS耐性をあまり持たないから」
「へえ?」
「それでも破格の火力を誇るルカという凄いのがいるんだけど──」


今度動画でも見るといいわ、数分もかからないから。と、言われた事は端に書き置いておく。



「ま、今は残りのヴィランを倒さなくちゃ。行くわよ!」
「──おう」













書き溜めた物語はいつの間にか深度にして100ほど。


「お疲れ様。最初ひいひい言いながら馬鹿だの有り得ないだの言ってた割には案外戦えてたじゃない」
「ははは……なんとか、なるもんだな……」


未だ冒険譚の物語自体は折り返し。先は長くもあるけれど──


「進んだ物語もゆっくり読むといいわ。またよろしく頼むわね?」
「おう」


手を取り合い、攻撃をかいくぐり、何度も転んでは立ち上がり──そんな戦いも、偶にはきっと悪くない。
そう思う時間が、確かに存在した気がした。




            *         *         *

グッキャンしてました。サントラ有難う御座います!!!!!!!!!!!!!
後今回のグッキャンで話題になったからか、御友人の方々からピーター色紙、ピタメア色紙等
過去のグッキャンや大会販売品などのお品物を譲って貰えることになったりしました。
本当に!有難う!!!御座います!!!!!!





難産。

  Special Thanks   セバスチャン/フィー・ラプンツェル

 
作成日時:2023/02/27 02:48
コメント( 2 )
セバスチャン
セバスチャン
2023年2月27日 3時28分

流石、文筆✨️
こんな風になるとはw

烏兎@Volksages
烏兎@Volksages
烏兎@Volksages
2023年2月28日 14時39分

文筆偉くはないので流石ではないです?です。
御同席有難う御座いました!本当に楽しかったですよっ

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