特に用事もなく、ただボーッと歩くのもたまにはいい。
春の陽気を肌で感じ、流れゆく雲の行く末を眺めるだけ。
首元にかけたヘッドホンからは眠気を誘うような静かな曲が流れてくる。

そんな平和で静かなひとときを見事にぶち壊すような大声が、微かに聞こえる彼女の履く靴が鳴らすシャーシャーという音と共に近づいてきた。
「エルルカーン!大変大変!大変やー!!」
嫌々ムクリと彼は体を起こし、彼女の声の方を見た。
しかし、彼女の姿はまだ小指の爪ほどの大きさだった。
「まったく...どーしたんだよー!!」
ジワジワと大きくなる彼女の姿に大声で問う。
「あっちでエピーヌとエピーヌの兄ちゃんが大喧嘩始めてしもたー!!エルルカンも助けてやー!!」
一瞬驚いたが、あぁなるほど、と彼は彼女がここにたどり着くまで慌てるフリをすることにした。
「それ本当!?急いで向かわないと!!」
息を切らしながらようやくここにたどり着いた彼女はそんな彼に満面の笑みを浮かべて、ただ一言。
「うっそー♪」
「知ってる。エピーヌならさっきここ通ってった。」
「うっそぉ...」
ガクリと肩を落とす彼女に今度は彼が満面の笑みを浮かべた。
「なに?エイプリルフールの真似事?エイプリルフールは昨日でしょ。」
「うっそぉ!?」
彼女は落とした肩をさらに落とした。
「ドロシィは元気だけど忙しすぎるんだよ。たまには僕みたいにのんびりしたらいいじゃん。」
そして彼はその場で再び横になった。
「...せやな!じゃあお隣失礼するで!」
彼女は彼の横に同じようにゴロンと横になった。
「雲キレイやなぁ...風気持ちええなぁ...暖かいなぁ...」
「あーもう!うるさいなぁ!!」
先程までウトウトしていたのに突然現れた嵐のおかげでまったく眠れなくなってしまった。
だが、横を見ると、当の本人はすぅすぅと寝息を立てていた。
「あぁもう...まったく......」
彼女は気持ちよさそうに口を開けていた。
「でも、たまにはいいかな。」
彼もまたゆっくりと瞼を閉じ、その意識を手放した。
更新日時:2021/04/03 01:59
(作成日時:2021/04/02 17:09)
コメント( 3 )
おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
2021年4月2日 17時48分

嘘とはいえ、エピーヌと兄さんの喧嘩は
見てみたいな…!

人生の分岐点・\( ^∀^ )/
も
2021年4月2日 18時22分

天然で距離の近いドロシィに露出の激しい衣装も相まってドギマギするエルルカンに具合悪いん?と額を付けダウン追撃するドロシィまで想像できたので逆サイから飛んできたスクリーモも八回くらいまでなら見逃せる気がします ありがとうございました

おぱんにゃにゃ
ベオウルフ
こうちゃん♪
こうちゃん♪
2021年4月2日 20時19分

「穏やかなひと時、体を横たえてゆるりと。」
気兼ねなくそんな風に過ごせる日々が、一日も早く訪れますように、そんな事を願いながら読み進めました。
こちら(北海道です)はまだちょっと寒いですが、ふきのとうが顔を出し始めました。
あ、ドロシィちゃんが横にいる、という状況は・・・「様々な意味合いで」心穏やかではいられなさそうです(失礼しました)。

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