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真夏の恐怖体験 デス・ピーター

by
おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
まず、オレっちの話を聞いてくれ。
あれは夢だったのかもしれぬぇし
夏の暑さにやられた頭が見せた蜃気楼…
幻の類いだったのかもしれねぇ。
なんにせよ、ちょいとした怪談だと思って
暇潰し程度に聞いてくれや……

その日、8月3日の快晴がもたらした
灼熱は、もはや快を通り越して不快の
一言に尽きる。
汗で張り付いた肌着のあまりの不快さに
目を覚まし、喉の渇きを潤すべく台所に
迎えば、冷蔵庫がお亡くなりになって
いた。
あまりの暑さに冷却機能が負け、ただの
デカイ箱と化していた。中の氷やあずき
バーが溶け、お漏らしのように広がって
いる。
日本はいつから、こんなクレイジーな国
になったのだろう。宮澤賢治も現代に
産まれていたら『夏ノアツサニモマケヌ』
などとは言わなかっただろう。
『そうだ、ワンダーに行こう』
その日、オレっちがワンダーに向かった
動機は、涼をとるためだった。

どうやって辿り着いたかもよく分からぬ
まま、気づけばワンダーの座席に腰を
降ろしていた。早朝でまだ、店内には客
の姿は見えなかった。
涼をとりに来たとはいえ、ワンダーは
この時間にマッチングするとは思えず、
しかし他のゲームをした事もなく、
かといって何もしないでいるのは客として
どうかと思ったのでAimeをタッチして
入国した。
バァン、と控えめな音量で開閉した扉の
音は新鮮に感じた。マイ店舗の筐体は

バァンとクソデカ爆音の為
オレっちの耳はむしろ、謎の
物足りなさを覚えた。


そうして始めた、冒険譚…
全国対戦はさすがに、人がいない気が
したが冒険譚ならマッチしそうな気が
した…


そのマッチングでヤツと出合った。

おう、マッチングしたぜと画面を
見ると、石のペンをしたピーターと
オレっちはマッチングしていた。

深度は000、PNは『      』となって
おり新兵ちゃんも同様であった。
これをサブカと見るのか、名前を決める
のが物凄く苦手な優柔不断な野郎ととる
のかはさておき、オレっちは単純に
この時間にマッチングした事に驚いた。
下位な深度であるため、ゆるやかな
ヴィラン退治が楽しめるだろうと…
オレっちは思っていた。

『よう大将!よろしく頼むぜ!』

開幕の挨拶、オレっちの挨拶はそのまま
宙ぶらりんになり、開幕ベルに消された。
これを挨拶もできない、最低限の礼儀も
知らぬサブカ野郎ととるか、チャットの
仕方もおぼつかない、あるいは超シャイな
初心者さんととるかは人による。
オレっちは挨拶は最低限、ゲーム以前に人としての礼儀だと母ちゃんに教わったので
この瞬間でのピーターのイメージは
サブカ野郎で定着した。
そのままレーン戦が始まり、オレっちと
新兵ちゃん(名をプロテインという。
強く育ってほしかった)で兵士どもを
蹴散らして行く。
レベル2になった直後、ピーターが
こちらへとやって来たのだ。
相変わらずチャットは無かったのだが
『ん?ドリームウインドかけてくれる
のかなありがてぇ』とオレっちは感心
していた。こんな礼儀を忘れたヤツでも
サポーターの仕事は果たすのかと。
案の定、ピーターは『いい夢みせて
やるぜ!』とバフをまいてくれた。
が、その直後

『良い年だったぜ!来年も
楽しくやりたいよな!』


とか言ったのである。

は?喋った?

え、てかチャットカスタマイズしてるの?

何が良い年だったのかサッパリ分からない

まま、困惑と共に感謝を述べると
オレっちは再び拠点を打破すべく
歩きだした。が、ピーターは再び
オレっちの方へ歩み寄ると、2どめの
ドリームウインドをかけ始めたのだ。


『ネバーランドにようこそ!』

なにがや。

ちょっとこの時点で恐怖を感じては
いたがその正体はわからなかった。
だが、その正体はピーターに3どめの
ドリームウインドをかけられた瞬間に
ハッキリとした。


『さあ走ろうぜ!運動会の
始まりだ!』

間違いはなかった。


ピーターは、カウントダウンを
していた。


最初の『良い年…』は12月チャット、
それがバフをかけるたびに11、10月と
数が小さくなっている。

なぜ?

なにもわからないが、カウントがゼロに
なった瞬間に、何かが起きる気がした。

何…?

何が『起きる』?


『今夜は月まで飛んで行こうぜ!』

4どめのバフをかけられた瞬間、
オレっちの口から悲鳴が漏れた!


拠点の破壊を放棄し、脱兎の如く
逃げだす。背後から無言でピーターが
迫って来た。そしてこの瞬間、
ファンファーレがレベル3を告げる。

…レベル3?
エア・ウォークが来る!!


しまった!こんなことなら律儀に
経験値を拾うんじゃ無かったと後悔が
押し寄せる。だが予想に反して、ピーター
は変わらず無言で迫るだけであった。
逆に怖い。
しかしスピードはやはりピーターの方が
速いに決まっているので距離はすぐに
縮まり

『暑さでバテてないか?
頑張れよ!』

ついに現実とシンクロした8月チャットを
うたれる。
暑くねぇよさっきから背筋を変な汗が
通りまくりだよ!

とりあえず敵城に向かってやみくもに
突っ走るオレっちの脇をヴィラン(ワニ)が
通り過ぎて行った。ガン無視。
いまワニ以上にピーターがヴィランなの
だから仕方ない。


『星に願いを…ロマンチック
すぎるかな?』


7月。と、同時にレベルが4に到達。
どうやら新兵ちゃんが健気に兵士を
処理してくれていたらしい。


『雨雲なんて、ふっ飛ばせ!』

6月。死へのカウントダウンは
折り返しを迎えた。焦るオレっちの
足もついに敵城に到達した。
オレっちも折り返さねばならない。
なんとかピーターを避けつつ、
戻らねば…!
その時、先ほどからチャージしていた
スキルが点灯した。こ、これだ!

『発気揚々!
そーりゃそりゃそりゃあ!!』


オレっちの張り手は兵士を蹴散らしながら
進撃し、そのままピーターを素通りし
ついでに後ろにいたフックをぶっ飛ばし
静止した。味方である為ピーターを
吹き飛ばす事はできないが、不意をついた
為にかなりの距離を稼いだ。
い、いまのうちに逃げる!

ついでに自軍の方にいた新兵ちゃんに
指示線を出した。うまくいけば、中程で
合流できるハズだ。
クルっとこちらを向いたピーターは
何事も無かったように
『空の彼方へ!』と飛んできた。

使ってくるんかい!
そのまま悠々と
『知ってたか?子供は
歳をとらないんだ』
と5月のバフを
配り終える。
もう一度、張り手で距離を稼ぎたい
ところだが何しろ、一番チャージに時間
のかかるスキル。そのまま距離を
詰められ

『花咲く季節ってのも
いいもんだな』
と4月の刻印を
うたれる。この刻印は凍結の刻印以上に
オレっちを震えさせた。
早く!早く来てくれ…!
ピーターが3月の香りを纏わせ近づく
最中、ようやくオレっちは我が新兵、
プロテインちゃんと合流した。
頼むっ、オレっちの祈り、通じろ…!


『優位を確立します』
新兵ちゃんのドリームウインドは
たちまちオレっちの体を包みこみ、

速力が増した。や、やった!ピーターと
同速ぐらいになった!ありがてぇよう!

自城まで辿り着いたときには残り時間は
2分と30秒ばかしを過ぎていた。
途中、いいかんじに張り手でフェイント
をかけられたお陰で時間を稼ぐことが
できたのだ。
はっけよい!と張り手でUターンしようと
するがさすがに慣れたらしく、
すれ違いざまに

『ええと、なんか照れ臭い
もんだな、こういうの
と照れながら
3月のバフを渡してきやがった。
あ、あと2回でカウントが完了する…!
だがあと2分なんだ、頑張れなんとか
なると自分を励ましオレっちは走る。

この時、もうそろそろ新ちゃんの夢風が
ほしいなと思っていたら
『優位を確立します』と声が聞こえたので
オレっちは思わず新兵縮まりにナイスを
送った。だが、オレっちの新兵ちゃんは
バフを送ってはいなかった。
…?
違う、ヤツだ!
ピーターの新兵が、ピーターにバフを
飛ばした声だったのだ!

もう、とんでもないスピードでピーターが
突っ込んでくる。これ以上カウントされる
わけにはいかないので、ここで確実に
新兵ちゃんの夢風がほしいところだ。

不意に、プロテインちゃんの動きが
止まった。
え、バグった?

前を見ると、俺を忘れるなと云わんばかり
にワニがしっぽをこちらに向けていた。

ワニぃいいいいいッッッ!!!

そのまま情けのないデスロールが
新兵ちゃんを冥福へと叩き落とした。

完全に希望が絶たれた!ファック!
クソワニ!百日後に死ねッッッ!!

ああ、あぁあぁと嗚咽を漏らしながら
ヨタヨタと前へ走る。
バフが遂に切れる。前へ走る。
追いつかれる。


『恥ずかしがんないで、
俺にもチョコくれよな!』


わぁあああああああああああッッッ!!!
わぁああ!!
わああああああああああああッッ!!!

あと1回!!あと1回!!
パジェロ!ビンゴ!ウノ!ダウト!!
わぁあああああああああああ!!!

オレっちの恐怖は頂点に達し、ほぼ錯乱
状態でめちゃくちゃに走り狂った!
張り手光った!発動!そーりゃそりゃそりゃぁああああ!!

もう、自分がどこに立っているのかも
わからないなか、オレっちの精神は
限界を迎えた。ぷっつんと何かが切れ、
音が聴こえなくなった。あと1分近く
ある。もう、終わりだ…

ピーターが、足を止めたオレっちに
向かって、飛んでくる。その動きは、
走馬灯のように、やけにゆっくりと
見えた……




ピーターが
目の前にで海老ぞりになって
止まっている。
…?

スタン…?

ふと見れば、俺を忘れるなと
云わんばかりにワニがしっぽを
こちらに向けていた。

あ…あぁ……!


ワニ…ありがとう……!

ここは任せろと、ワニはオレっちに
背を向ける。オレっちは涙を流しながら
再び走りだす。

……


なんとか敵城近くまで逃げる事ができた。

マップを見ればピーターはワニと重なる
ように写っている。もう、いかなるバフ
でもここへは来れまい。
ふう、と息をつきながらオレっちは
ようやく疑問をもった。
あのピーターは、いったい何だったの
だろう…
なぜこんな時間にマッチしたのか。
なぜバフでカウントダウンをするのか。
カウントが完了すると、どうなるのか…
もう、知りたいとも思わなかった。
早く、終了の鐘が鳴ってほしかった。

考える余裕ができた頭でもう一度マップを
見ると、ピーターは相変わらず中央くらい
で動きを止めていた。いや、正確には
中央より、やや端へと移動していた。

残り時間が10秒を切った中、
オレっちは考える。
本当にもう、ヤツは来ないのか?
9。
なぜ、端へ移動したのだろう?
何かを発動するため?
8。
そういえば、オレっちはヤツの装備を
確認していないが…
7。
ヤツのマスタースキルは
なんだったんだ?
6。
オレっちの体力は、兵士を気にせず
走ったためずいぶんと減っていた。
5。


コズミックゲート…?


オレっちの背後を、何かが通り抜けた
気がした。その風はオレっちを
包みこみ、たしかにこう囁いた。


『ハッピーニューイヤー!
とびっきりの一年にしようぜ!』

………


……




とまあ、これでオレっちの話は
おしまいだ。え、その後どうなった?

あとは蛇足ってヤツだ、よくある話で
気づいたらオレっちは店員さんに
起こされていた。店員さんに
ありのままを話してみたら、オレっちの
座っていた筐体はメンテ中だから
プレイできるはずがねえってんだ。
見ると確かに、バカでかく『メンテ中』
って書かれた紙が画面に貼り付けて
あったんだ。…だから言っただろ、
夢だったのかもしれねえって。
どうやってゲーセンに辿り着いたのかも
覚えてねえし、どこからどこまでが
夢だったのか…
…ああ……
もしかしたら、あのカウントがゼロに
なったから、全部、夢になっちまったの
かもな……
良い夢みせてやるぜ、ってな。

                              _終_



















 
作成日時:2021/08/19 04:28
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プレイ日記
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おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
8月22日 18時9分

朱雀の大将
夢だからっ!大丈夫だからっ…!
皆さまの恐怖体験、どしどしお聞かせ下さい。
もう夏、終わるけど。

流夜
流夜
8月24日 17時53分

相も変わらず惹きつける文章を書かれる・・・

おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
おぱんにゃにゃ
8月24日 21時28分

流夜の大将
マジか。進化したと思っていたが、変わったと感じてた
のはオレっちだけだったのかっ!嬉しい悲しい。😆😭
どうしたら変わったって思われるんだ…!
邪道丸にでもなったろか?!それはまた違う話か。

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