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とある魔女裁判実録

by
店員@神埼蘭子P
文筆
文筆
店員@神埼蘭子P
コツ……コツ……と正確なリズムで靴音が響く。
ここからでは後ろ姿しか見えない。
しかし、その音を聞くだけで彼女の信念、生き様、自信が見て取れるようだった。

彼女こそ本裁判の主役にして被告、アシェンプテルである。


SE○A裁判官
「被告アシェンプテルには、この御伽の国において看過できぬ重大な嫌疑がかけられておる」

アシェンプテル
「好きに言うがいい」

声には不服というより不甲斐なさが混じっているように聞こえる。
たしかに彼女のここ最近の戦場での活躍はあまり耳に届かない。
彼女自身歯痒い思いをしているであろうことは想像に難くなかった。
そんな中、この『魔女裁判』である。
私はこの噂を聞いたとき、
この現代においてそんなバカなことがあるのか? と我が耳を疑った。
だが信頼のおける同業者の言葉だ。無下にもできまいとここに至る。

S○GA裁判官
「被告アシェンプテル、あなたが現時点でその罪を全面的に認めるのであれば、
 我々も悪魔ではない。情状酌量の余地を与えよう」

アシェンプテル
「愚問だな。
 真実の女神は常に正しき者に微笑むのだ」

SEG○裁判官
「では罪を認めるつもりはないと?」

アシェンプテル
「当然だ」

○EGA裁判官
「我々は残念だよ。良心の呵責に胸が張り裂けそうだ。
 しかし、罪には罰が必要なのだ」

はたから見ても演技掛かったその口調は、
意図的に相手の神経を逆なでしているようである。
裁判官はおもむろに右手で合図を出す。
すると扉の向こうから自信なさげな少女と、
それとは対称的に高圧的な少年が現れた。

証人台に赴く少年と少女を目で追うさなか、
浮世離れした貴婦人らしきものに目が止まった。
その美しさは場違いであるとも言える。
なぜだろう? あれ程の美女、私でなくとも見つめてしまうはずなのだが……。
傍聴席の衆人はまるで彼女がいないかのような態度だった。

アシェンプテル
「……っ!」

視界の端のアシェンプテルに僅かに動きがあった。
戦場の屈辱を思い出してしまったのだろうか?

SE○A裁判官
「率直に問おう。君たちは被告アシェンプテルにいかような被害を受けたのだ?」

少女
「私はいろんな人の力を借りて、やっと兵士を倒せるの。
 でもアシェンプテルは自分ひとりの力だけで兵士を倒せるの」

少年
「そうだよ。あいつ絶対なにかズルしてるんだ!」

少年が間髪入れずに言葉を続けた。

少年
「それに僕が一生懸命壁打ちの練習してるのに、いっつも邪魔してくるんだ。
 見えないズルして僕の足を遅くしたあとにイジメてくるんだよ!」

少女がコク……コク……と同意する。

SEG○裁判官
「おぉ~なんと可哀想に、さぞ辛い目にあったのだろう」

裁判官は大仰な身の振りで悲しみを表現する。

アシェンプテル
「ふざけるのも大概にしろ!
 だいいちお前たちのほうが――」

S○GA裁判官
「被告人は静粛に!
 今はあなたの発言時間ではない!」

アシェンプテル
「…………っ!!」

不遜な態度の裁判官の言葉に黙るアシェンプテル。
不遜な態度に対し、激昂では返さない。
なんと立派であろうか。

○EGA裁判官
「しかしこれでは被告人の弁解を聞くまでもないな」

裁判官から信じられない言葉が出た。
これは紛いなりにも裁判ではなかったのか?
あまりの暴虐ぶりにアシェンプテルも言葉を返そうとしたその瞬間、

ドン!

というギャベルの音が響き渡る。
思わず耳を塞いでしまうほどの音である。
一瞬意識を奪われそうな錯覚に陥るが、なんとか踏みとどまった。
アシェンプテルの様子を見ると、驚愕に視線が左右を往復している。
何かを言い返そうとしていたように見えたが、彼女から肝心の言葉は漏れない。
イカサマを仕掛けられたのか? そう疑わずにはいられなかった。

SEG○裁判官
「被告人に反論がないようだな、では判決を言い渡す!」

裁判官の醜悪な笑みは夢に出てきそうなほどの悪寒であった。

SEGA裁判官
「被告アシェンプテルはアタッカーという役割でありながら、
 端レーンの戦いにおいてレベル4から自力で兵士を蹴散らすその能力。
 そしりを免れぬ厳然たる事実である!
 よって今よりその能力を剥奪し、アタッカーとして闘うことを義務付けるものとする。
 以上、閉廷‼」

アシェンプテル
「…………っ、貴様の目は節穴か!?
 女子供の発言というだけでその目は曇るのか!?
 真実を見ろ! 戦場の声を聞け!
 生きた勝利者ではなく、死んだ敗北者の声を聞け!
 これではなにも変わらない!」

アシェンプテルの毅然たる声を聞くものはおらず、
かくいう私も裁判官の言葉が正しいのだと信じそうになっていた。
あのギャベルにはやはり何か仕込まれていたのか?
徐々に混濁する視界の中、あの貴婦人のほくそ笑みが見えた。
私の意識はそこで途切れた……。


※この物語はフィクションだよ?
作成日時:2021/10/05 18:32
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